愛と人間賛歌、そして解放。
これは、何でもわかったような顔して無感動に生きている現代人に、人間性を獲得させるための映画だと思う。
言葉の表面や、何かや誰かに教えてもらった答えではなく、まずは自分で実際に動いてやってみてその意味を知ることの大切さ。嫌なことの方が多く印象にも残るけれども、それでもきっと生きていくことは悪いことばかりではないよ。
面倒臭いことやどうしてもやりたくないことはたくさんあるだろうけど、それでも自分で選んで自分で決めて自分でやらないと、きっともっと後悔は大きなものになる。誰かが決めたことなんかじゃ駄目なんだ。
ここまでで気付く人も多いと思うけど、おそらくこの映画は冒頭だけでなく本編の内容自体がそのまま、:序、:破、で表現されていたものを再度踏ませ、:Qの延長線上で答えを提示するという形になっている。
:Qはちゃんと観ればわかるように作られているし、ちゃんと観なかった人が口を揃えて言っていた疑問や不満も、今回はちゃんと観なくてもわかるようになっている。親切で、敷居が低い。
特によかったのは、誰かと愛し合い、子どもを産み育て明日を生きていく、そういう普通のことが何よりも尊いのだと、当たり前のことを当たり前に表現し尽くしたことだ。そうやって背負うことで、人は自分自身の弱さをも知り受け入れるのだよ。アニメファンに向けて、アニメファンのためだけに作っている作品では避けられがちなこと。本当のことって、ウケが悪いからね。図星を突かれてムキになるのは、残念ながら教養が足りていない証拠だ。だけど足りないものは、いくつになってからでも身につければいい。当然、特定の層、声だけ大きい少数派からの風当たりが強いことは誰よりも理解してのことでしょう。その上で、強い願いを叶えようとするのであれば、人にとどまることは出来ないと覚悟するべきだという教訓と一応のフォローもある。目の前にいる人と直接関わって言葉と心を通わせずに、自分と目的のためだけに生きてきたんだから。そうなるに十分過ぎる理由があったんだよって。運命なんかじゃなく、そっちを選んだんだ。人や世界を恨んだり呪ったりなんかしちゃいけない。この辺が、あくまでエンターテインメントとしてのバランス感覚。自分の親みたいな年齢の人が非常に多く観に来ていたが、その中には、なりたかった何者にもなれず、普通の幸せを手にすることも出来なかった人もそれなりにいるだろうからね。また、そういう人達が昔からコンテンツを太く支えていたんだろうし。もうここまで来たら、昔からのファンはとっくにもっと先のステージに行ってるってことも往々にしてあるだろうけど。ここで大事なのは、たとえ普通や普通とされる幸せを手に入れられなかったとしても、それでも明日は来るし、それでも人は生きていかなくちゃいけないってこと。消毒し切った世界じゃ、個も個としていられない。人として生きるのなら、人としての責任を果たさなくちゃならない。それが、けじめ。
家族や地域共同体がそれとして機能しなくなり、既存の価値や価値観がめまぐるしく崩壊していく今、ここにこうやって残しておく意味があるし、終わらせておく必要もある。やさしくあたたかくも、攻撃的で強さがある作品。これは現実逃避の翼なんかじゃなく、現実を生き抜くための槍と鏡なんだ。
データなんかじゃ駄目、物を作り、受け手も物を持てというメッセージも強く光る。
キャラクター一人一人の解放と共に、庵野総監督自身の解放でもあるのだろう。総監督の思惑とは裏腹に、また『エヴァ以降』の作品が作られる時代に突入するかも知れないが、そんな時代が長く続いたら、また起こるはずのないことが起こるかも知れないから、いつだって未来とは絶対に面白いものなのだ。これが存在する前と後では全く違う世界になってしまったのだから。
何かとネタにされがちだけど、バキのエア夜食も必要なものだったんだよね。リリンの王、碇ゲンドウは範馬勇次郎だったんだ。
公開前日までのエヴァの評価はこう。
「シンプルで特に難しいこともないが、想像させ時に深読みさせるジャパニーズカルトの傑作。明かされていないところは明かされていないだけで、謎でも何でもないんだよ。先入観を考えろ。正当な評価として、:Qが最高傑作。」
そして前日の夜に、:序、:破、:Qと真剣に観返してから挑んだけれども、間違いなくシンエヴァが最高傑作。戦闘シーンの展開自体は喧嘩稼業を彷彿とさせるくらいのフルクライマックス、要は世界で一番くらいに面白いってことだ。そんなバトル。今回は特にファンタスティック・プラネットが下敷きにあるのかなと思うけど、それには及ばないまでも、:Q以降のアニメ映画では、シン・エヴァンゲリオン劇場版より上ってのは現状存在しないと思う。それくらいの大傑作。
自分はオタク的な人や物や経験や生き方とは無縁で、現代アニメを観ようと決めてこの数年アニメを勉強してきたけれども、それが報われたと感じた数少ない瞬間の一つだった。本当に観てよかったよ。
「だって」や「でも」じゃない。君が受け取ったものは、気付かないだけで最初から今もずっと君の中にあるんだ。回れ左して、今日も明日も明後日も14年後も希望を信じて現実を生きましょう。
足るを知り、和をもって尊しとなす。
友達と仲良く、家族と仲良く、恋人と仲良くね。絆、愛と感謝。
どんな偉大な映画監督に対しても存命中に思ったことはなかったのですが、庵野秀明総監督、お疲れ様でした。
以上、事前情報に、パンフレットやインタビューの類いは一切読む前、公開初日に一度観た時のピュアでプリミティブな感想と考察です。これだから若い男は。
おはよう
おやすみ
ありがとう
さよなら